
はじめに
株式会社ブックリスタのプロダクト開発部でエンジニアとして開発に携わっている峯岸と申します。
主に新規事業開発室でiOSアプリの「Oshibana」とWebサービス「推しゲーム」などを開発しています。
新規事業開発室ではOshibanaや推しゲームなどのサービスを展開しており、そこでAIを積極的に活用しています。
今回は日々の開発において、また現在試行しているビジネスサイドとの協働において、どのようにAIを利用しているかご紹介します。
新規事業開発の課題
新規事業開発においては、市場の需要を迅速に検証し、リリースサイクルを短縮することが重要です。しかし少人数のチームでは、スピードを優先すると将来の拡張性・保守性が損なわれ、品質を重視すると市場機会を逃すリスクが高まるというジレンマに直面していました。
AIをパートナーとした解決アプローチ
そこで、AIを利用して今までとは異なるアプローチでリリースサイクルを短縮できないか模索していました。従来から活用している開発のAI利用に加え、ビジネスサイドは考えたアイディアの動作を確認するプロトタイプを作り、それをエンジニアに渡して実装する、という協働モデルです。
AIの力を借りることで、少人数でありながらも開発スピードを維持し、かつ一定の品質を保った効率的な開発を実現することを目指しています。また、ビジネスサイドがAIを活用して市場性を検証できるようになることで、エンジニアリソースをより確度の高い開発に集中できます。その結果、リリースサイクルの短縮と拡張性・保守性の向上を両立できるようになると考えています。
利用しているAI
新規事業の開発においては次のAIを主に利用しています。
- VSCode Copilot
- Cursor
- Devin
- Claude Code
開発現場でのAI活用事例
設計、実装、レビュー、バグ分析など、開発プロセス全体でAIを活用しています。
設計フェーズでは、AIに設計のリスクや簡略化の余地などを質問し、過度な作り込みを避けながら技術的負債を最小限に抑えた設計を短時間で検討しています。
実装段階では、Devinなどの非同期型AIに実装を依頼し、その後Cursorなどの対話型AIを使って品質を担保しながら仕上げを行っています。
レビュー工程では、Claude Codeでプルリクエストの要約を自動生成し、事前定義したチェック観点に基づいた一次レビューを依頼します。
人間のレビュアーはより本質的な設計やロジックの妥当性をレビューします。
バグ分析・修正では、Claude Codeでクラッシュレポートやエラーログを解析し、Cursorで原因調査を効率化し、修正案を短時間で検証できるようになりました。
ビジネスサイドとの協働
これまで開発チームでのAI活用から始まり、現在ではビジネスサイドでも企画段階での壁打ちやプロトタイプ生成にAIを活用するようになってきました。今後は、ビジネスと開発がより一体となって進んでいけるようなAI活用を模索しています。
企画から本番リリースまでの新しい協働モデル

従来、ビジネスサイドが作りたいアイディアを形にするためには、エンジニアのリソースを使う必要がありました。しかしAIの進化により、ビジネスサイドが自らプロトタイプを作成できるようになりました。この変化により、ビジネスサイドが考えるイメージに近いものをエンジニアが実装できるようになり、プロトタイプがあることで「こういうものを作りたい」という意思疎通が格段に行いやすくなりました。その結果、開発の方向性が明確になり、リリースサイクルが短縮され、より迅速に市場に価値を届けられるようになりました。
具体的な協働の流れ
実際の開発では、以下のような流れでビジネスサイドとエンジニアが協働しています。ここでは、推しゲームの中で最近リリースした推し占いを実例として、この協働モデルがどのように機能したかをご紹介します。
推しゲームは各ゲームをマイクロサービスとして実装しており、それらを組み込む形でサービスが成り立っています。このアーキテクチャにより、各ゲームを独立して開発・デプロイでき、新規ゲームの追加や既存ゲームの更新が容易になっています。推し占いもこのマイクロサービスの1つとして実装されました。
ビジネスサイドによるプロトタイプ作成(推し占いの例)
推し占いの開発では、まずビジネスサイドがAIを活用してスタンドアロンで動くようなモック的なプロトタイプを作成しました。このプロトタイプにより、アイディアが実際にどう動くかを確認でき、動作イメージを明確にできました。この時点では既存のアプリ、サービスとの整合性はあまり考慮せず、とにかく動くものを作成することを優先しました。
ビジネスサイドは、AIに対して「推し占いのゲームを作りたい」というアイディアを、画面の構成や機能の要件として伝えました。AIはその要件を元に、HTMLやJavaScriptで動作するプロトタイプを生成します。このプロセスで、ビジネスサイドは自分のアイディアが実際に動く様子を確認でき、必要に応じて何度でも修正を繰り返して理想の形に近づけていきます。

この作業を通じて、ビジネスサイドからAIに渡す仕様書が出来上がります。この仕様書には、画面の構成、機能の詳細、ユーザーの操作フローなどが含まれており、以降はエンジニアも参照しながら作業を進めていきます。プロトタイプがあることで、ビジネスサイドとエンジニアの間で「こういうものを作りたい」という共通認識が生まれ、意思疎通が格段にスムーズになります。
Before(プロトタイプ)

After(本番)
プロトタイプと本番実装を比較すると、基本的な画面構成や機能はプロトタイプのイメージをそのまま反映しています。一方で、既存の推しゲームのデザインシステムに合わせたUIの調整や、実際のデータベースとの連携、エラーハンドリングなど、本番環境で必要な要素が追加されています。プロトタイプがあることで、ビジネスサイドが求めている機能やUIのイメージが明確になっているため、実装の方向性がぶれることなく効率的に開発を進められました。
ビジネスサイドと開発側の取り決め
推し占いの開発でこの協働モデルをスムーズに進めるため、ビジネスサイドと開発側で以下の取り決めを行いました。これら取り決めはビジネスサイドでプロトタイプを作成する際AIに渡され、推し占いのプロトタイプ作成時も適用されました。
これらの取り決めの多くは開発を速やかに行うための制約です。AIのプロンプトへ組み込むことで、ビジネスサイドが意識せずとも自動的にこの制約を守れるような状況を作り出しています。これにより、ビジネスサイドはアイディアの実現に集中でき、開発側も効率的に実装を進められるという、双方にとってメリットのある協働が実現できています。
| 取り決め | 説明 |
|---|---|
| プロトタイプはスタンドアロンで動くこと | プロトタイプは既存のシステムに依存せず、単独で動作するように作成する。これにより、ビジネスサイドは自分の環境で自由にプロトタイプを確認・修正でき、エンジニアもプロトタイプの動作を独立して検証できる。 |
| サーバー連携部分はモックで実装を切り替え可能にすること | データの永続化やGoogle Analytics(GA)などのサーバー連携が必要な部分については、モックを利用して実装を切り替えられるようにする。これにより、エンジニアはプロトタイプの動作確認を容易に行え、実環境への組み込み時もモックから本番実装への切り替えがスムーズに行える。 |
| プロトタイプのアーキテクチャは統合先にできるだけ合わせること | プロトタイプを作成する際、統合先のアーキテクチャ(推しゲームの場合はマイクロサービスアーキテクチャ)にできるだけ合わせるようにAIに指示を行う。これにより、エンジニアがプロトタイプを本番実装に変換する際の作業量が減り、既存システムへの組み込みがスムーズに行える。例えば、コンポーネントの構造やデータの流れを統合先のアーキテクチャに近づけることで、実装時の変換コストを最小限に抑えられる。 |
これらの取り決めにより、開発側のプロトタイプ動作確認と実環境への組み込みが行いやすくなり、ビジネスサイドとエンジニアの協働がより効率的になりました。
エンジニアによる本番実装(推し占いの例)
ビジネスサイドが作成した推し占いのプロトタイプと仕様書を受け取ったエンジニアは、これを基に本番環境での実装を進めました。
まず、エンジニアは、ビジネスサイドが作成したプロトタイプと仕様書を参考に、本番環境での実装に必要な技術的な仕様書を作成しました。エンジニア主導で必要に応じてビジネスサイドとコミュニケーションをとりながら、データモデルの設計、APIの仕様、既存システムとの統合方法などを検討できました。ビジネス要件と技術的な制約の両方を考慮した議論がしやすくなり、破綻のない構造を維持できました。

その後、エンジニアはこのプロトタイプと仕様書をベースに、バックエンドや既存機能とのマージを行いました。推しゲームのマイクロサービスアーキテクチャにより、推し占いゲームは独立したサービスとして実装され、既存の推しゲームプラットフォームに組み込まれました。
推し占いのバックエンドについてはデータモデルと、プロトタイプのモックを参考にAIを利用して実装しました。フロントについても同様にプロトタイプのモック実装を本実装に切り替え、バックエンドに接続するような指示をAIに与えて実装しました。ビジネスサイドの仕様書とエンジニアの仕様書を両方参照することで、ビジネス要件と技術要件の両方を満たした実装が可能になりました。
ビジネスサイドにとっての効果
この協働モデルにより、ビジネスサイドは以下のような効果を実感しています。
- アイディアの検証が迅速に:エンジニアのリソースを待たずに、自分でプロトタイプを作成してアイディアを検証できるようになった
- 意思疎通の質が向上:プロトタイプにより、ビジネスサイドとエンジニアの間で「こういうものを作りたい」という共通認識が生まれ、詳細な仕様のすり合わせが効率的になった
- 市場への投入速度が向上:プロトタイプ段階で動作イメージが明確になっているため、実装の方向性がぶれることなく、迅速に市場に価値を届けられるようになった
今後の展望
企画から開発、運用まで、ビジネスとエンジニアリングが境界なくAIをパートナーとして活用し、より迅速で質の高い意思決定と実行ができる組織を作っていきたいと考えています。この「失敗前提で設計されたパイプライン」こそが、新規事業開発におけるAI活用の本質的な価値だと考えています。
また、ビジネスサイドが作成するプロトタイプのデザインについて、既存機能と統一感を取るために、Figmaで作成されたデザインコンポーネントからAIを使ってデザインを作れるような仕組みを考えています。これにより、プロトタイプ段階から既存サービスとの統一感を保ったデザインを生成でき、実装時のデザイン調整のコストを削減できるようになると期待しています。














